前回「売上総利益」について解説した。
簡単に復習すると、損益計算書(以下、P/L)で登場する複数の利益概念のうち、最初に算定される利益で、別名「粗利益」とも呼ばれる。
意味としては商品やサービス自体がもたらす利益であり、「売上高」から「売上原価」を差し引くことで算出される。そして、業種によって大きさが異なることを吉野家とコメダ珈琲の事例からも示した。
今回はその続きとして「営業利益」について紹介していく。
まず最初に、営業利益の意味から確認しておこう。
営業利益は「本業から得られた儲け」を示す利益であり、ビジネスモデルの強さを示しているとも言える。
売上総利益と比べながらゆっくり理解していこう。
会社は自社の商品やサービスを売るために、人件費や広告宣伝費など、様々なコストをかけて事業をしていることは何となくイメージできるかと思う。
どんなコストをかけるかは企業によって異なるが、こういった事業を展開する上で必要なコストを差し引いて残った利益が「営業利益」である。そのため、本業から得られた利益と言われる。
ここで一度、売上総利益と営業利益の違いを簡単にまとめておこう。
「ビジネスモデルの強さ」という表現は今一つわかりにくいだろうが、ここは最後の企業事例を通じて解説していくので安心して欲しい。
続いて、営業利益の算定式について見ていこう。
売上総利益と同様に、こういった利益概念の算定式は非常に重要なのでぜひ覚えて欲しい。
営業利益の算定式を示すと以下のようになる。
「売上総利益」-「販管費」=「営業利益」
販管費というのは「販売費及び一般管理費」の略語だ。これは商品やサービスを販売するためにかかる様々なコストのことを意味する。
厳密には、商品やサービスを販売するために発生するコストが「販売費」、それに付随して発生する管理コストが「一般管理費」といったイメージなのだが、両者をまとめて表現することが一般的だ。
文字で書くとかなり長いので「販管費」や「SGA(Selling,General,Administration)」と表現するのが個人的なおすすめでもある。
販管費の主な具体例としては「人件費」「広告宣伝費」「店舗家賃」「業務委託費」「水道光熱費」「減価償却費」などがあげられる。もちろん他にもたくさんある。
このように、売上総利益から販管費を差し引くことで求められる利益が「営業利益」となる。
ここまでの話を図でまとめておこう。
前回と同じだが、左側の図はP/Lの構造(並び順)だ。そのうち今回はオレンジ色になっている「営業利益」にフォーカスしている。
そして右側にある図は、簿記のルールにしたがって表示したものだが、これは「右側に収益、左側に費用」をまとめて記載しているに過ぎない。
前回紹介した「売上総利益」には売上と売上原価しかなかったが、今回はそこに「販管費」が追加され、その残りの利益が「営業利益」となっていることがわかるかと思う。
ビジネスをするために必要なコストをかけて残った利益なので、本業から得られた利益と言えるのだ。
ちなみに今回は「営業利益」と表現しているが、もし売上総利益を上回る販管費が発生した場合には「営業損失」となる点は知っておいて欲しい。
この考え方は他の利益概念でも共通しており、プラスであれば「利益」、マイナスであれば「損失」と表現される。
では最後に、企業事例を取り上げたいと思う。
今回も「吉野家ホールディング」と「コメダホールディング」について比べてみる。牛丼の吉野家と中京地区を中心に全国展開をしている珈琲チェーンだ。コメダのカツサンドを初めて食べた時のボリューム感は今も忘れられない。
両社の営業利益を比べる前に、一つ思い出して欲しい。前回は両社の売上総利益を比べたが、その時は下図のように吉野家の方が売上総利益は大きかった。
この点を踏まえた上で営業利益の比較をしてみたい。
両社の営業利益の大きさを比べたものが下図となる。
どうだろうか?
営業利益までを比べてみると、先ほどとは逆転し、コメダの方が利益が大きい。一方で吉野家は営業損失となってしまっている。
同じ外食産業で消費者向けのBtoCビジネスを展開しているものの、顧客に提供している商品メニューは当然異なるため、本当の意味での比較や優劣の判断はできない。
だが、両社の決算書を比べることで、ビジネスモデルの違いや強さの源泉を見つける手がかりを得られることになる。
ここに企業分析の面白さや奥深さがあるのだ。
会計思考を身に付け、フルに思考を回転させることで企業の事業メカニズムを知ることにもつながる。
今回は「営業利益」に関する説明なのでこれ以上は深入りしないが、企業によって取る戦略が異なる以上、ビジネスモデルの強さとしての結果も変わってくることはぜひ感じて頂きたい。
次回は「経常利益」について紹介していく。
編集後記
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。今回は「営業利益」について紹介してみました。
前回紹介した「売上総利益」と似ているようにも思えますが、より広い範囲のコストを包含している点で売上総利益とは異なってきます。
「本業から得られた儲け」を示す重要な概念なので、営業利益やそこから派生して導出された利益概念を重視する経営者や投資家も少なくありません。
企業事例を通じて、ビジネスモデルの強さの意味についても確認してみました。案外、会計資格の勉強だけではこういった本質的な部分を見落としがちです。
資格合格のための勉強やインプットが中心となるので仕方ありませんが、ビジネス現場に出た時に活かせる会計スキルこそ手に入れたいものです。
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